熱望されているマタニティ 写真

自然の中に溶け込むように存在する比叡山や中尊寺などとはまるで趣が異なる。 ところで、欧米文明に特徴的なのは、連鎖的因果関係を解明することによって物事の白黒をはっきりつけようとする合理的思考方法であり、その論理的体系性が有無を言わせぬ説得力を持っているという一面である。
英国人と議論してみると分かるが、彼等は、ある事象や事柄がAという類型に属するのかBという類型に属するのか、はたまたCなのかということをとことん追求する。 時には、強引とも思われるような手法を使って類型化に努めるようなところがあり、ある事柄や事象がA類型にもB類型にも両方属するという暖昧さを認めないところがある。
そうすることで論理的体系性を保つことに全精力を注いでいることが痛いほど感じられる。 ところで、こうした論理的体系性が可能なのは、欧米文明が、唯一神を奉ずるキリスト教に見られるように、絶対的な正義や価値観というものを持っているということによるところも大なのかもしれない。
欧米が絶対と信じる正義や価値を、「力」でもって押し付けるのであるから、押し付けられた方はたまらない。 攻撃的で一見説得力のある欧米文化に触れて、日本人が無力を感じたとしても不思議ではないし、第二次世界大戦での敗北はさらにその傾向を強めたように思われる。
結果として、欧米から遠く離れた極東に位置する日本という島国に、「欧米絶対信仰」とも言うべきものが定着するという不思議な結果になった。 我々日本人の心理の奥深くに、私自身もそうであるように、欧米人に接すると、依然として自分達は劣っているような感覚を覚えてしまう傾向を植え付け、彼等を特別扱いし、彼等が何か素晴らしいもののように思い、「勉強させていただく」という態度に出てしまう癖を染み付かせてしまったように思われる。
と思ってしまう、そんなことはないであろうか。 また、日本人には、外国の首脳の演説などを聞くと、理由もなく何となく感動してしまうというようなことが性々にしてある。

ところがそれを実際に日本語に訳して、落着いて読んでみるとたいしたことを言っている訳ではなく、中身のない美辞麗句だらけなどという場合も多い。 このように書くと、「いやいや日本人はそんなに劣等感を持っていないよ。
バブルの時代には欧米を凌駕したと考えていたじゃないか」と反論されるかもしれない。 実際、明治維新後の日本の歴史は、欧米に対する劣等感と優越感の間をいったりきたりする歴史であった。
第二次世界大戦に突っ込んでいったのは、欧米列強に追いついたという自信の表れの一つであったし、バブル時代には、「もはや欧米から学ぶことはない。 これからは教えてやる番だ」という意見もあった。
「日本の終身一雇用制、年功序列制、メインバンク制などは世界中に誇るべき仕組みだ」と豪語した人がどれほどいたことか。 ところが、その舌の根も乾かぬうちに、日本式経営に対する評価は百八十度転換してしまっている。
しかも、日本の優越性を高らかに宣言した同じ人が、手のひらを返したように、日本システムを批判しだすのだから始末が悪い。 この大きな揺り戻しこそ、劣等感以外の何物でもない。
劣等感を感じていなければ、一時期の経済状況や国際社会での発言力の多寡などで一喜一憂する訳がない。 実際、英国は、少なくとも経済面では、とうの昔に日本に追い抜かれているが、依然として日本など得体の知れない東洋の国ぐらいにしか思っていないようなところがある。
先ほど、英国人は「外国人を特別扱いしない」と書いたが、この姿勢は、国家、組織レベルではどのような形となって現れるのであろうか。 私が感じたことは、日本のように、外国から学ぶということについて、必ずしも熱心ではないということである。

正確に言うと、「外国から受動的にあるいは無批判に学ぶ」ということについて、必ずしも日本のように熱心でないということであろう。 ここでも、私の仕事上の経験を記しておこう。
いずれにせよ、日本人特有の欧米に対する劣等感、特別扱いは、結果として、何か問題があると、すぐに海外に目を転じ、あるいは、海外でなされていることは何でも正しいのだという思い込みにも似た態度を生んでいる。 英国大蔵省への出向に当たって私が日本から持参したものの中には、日本食や和食器といった日常の必要品を除くと、大して重要なものはなかったのであるが、唯一、後生大事に私が日本から持参したものとして、日本の政治・行政、財政・金融に関する数々の資料と日、英、米、仏、独など主要先進諸国の政治・行政、財政・金融について比較研究した様々な資料があった。
何故こんなものを持ってきたかというと、別に日本語の資料が恋しかった訳ではなく、何かの機会に役立つと思ったからであり、私にとっては、言わば弁慶の七つ道具のようなものである。 前者の日本に関する資料は説明するまでもないが、後者については、世界各国について調査・研究するという点において、日本の役所ほど熱心なところはなく、また、その調査・研究の内容も十分に信頼に値するということについて、確信に近いものがあったからである。
英国でも必ず役立つであろうと考えたのである。 現実は非常にお寒いものであった。
結局、これら日本から持参した数々の資料は、日の目を見る機会に恵まれることはなかった。 何を意味するのか。
英国は外国に全く関心がないのであろうか。 さすがに外国に全く関心がないということはなさそうだ。
例えば、労働党が1997年の総選挙に勝利した背景には、米国のK民主党政権の政策と選挙活動から多くを学んだことがある。 あるいは、1980年代後半、野党であった労働党は、1984年にニュージーランドで誕生した労働党政権が採用した、「T銀行に独立性を付与する一方で、T銀行に対してインフレーションを3%以内に抑えるよう要求する」という政策などから多くを学んだという。
では、日本にだけ全く関心がないということであろうか。 そういう面はあるのかもしれない。
バブル崩壊後の日本経済の長期低迷、今や先進国中最悪の状況にある財政赤字、欧米資本の助けを借りなければやっていけなくなってしまった日本企業を目の当たりにして、日本という国の魅力がすっかり色褪せたものとなっているとしても何ら不思議ではない。 日本の経済的プレゼンスの低下だけが日本に対する無関心とも思える態度の原因であると考えるのは、あまりに一面的過ぎる。

やはり、「外国から学ぶ」ということに対する日英の基本的態度の違いについて三点指摘しておく必要があるように思われる。 外国のシステムをパッチワーク的に移植するような、いいとこ取りはしないという、英国の冷静な姿勢である。
例えば、ブレア党首の下でまだ野党であった時代の労働党は、新たな資本主義のモデルについて、ドイツを代表とする欧州型、日本を代表とするアジア型、アメリカを代表とするアングロサクソン型の三つに分けて入念な研究をしていたという。 その中で、ブレァ労働党が出した結論は、他国の制度をそのまま導入するようなことは無意味であり、英国独自のシステムを英国の歴史や事情にあわせて構築するのだというものであった。

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